今週の一週一言
6月6日~6月12日
「そのうちやる」という名の通りを歩いていき、行き着くところは「何もない」と
いう名札のかかった家だ
セルバンテス・・・1547~1616 スペイン=ルネサンスの代表的作家。激動するスペイン社会の矛盾をユーモアとペーソスあふれた作品に表現した。
|
【如是我聞】
この言葉をはじめて目にしたとき、思わず声を出して笑ってしまった。しかし直後に、過去50年ほどの間に、節目節目で取った自分の選択のあれこれを思い出し、少々メランコリーな気分に陥った。その後あわてて、「いつもそうだったわけではない」などと、心の中で言い訳をしている自分に気づいた。いったい誰に言い訳をしているのか。胃の奥の方が軽く、キュッと締め付けられるのを感じた。私だけだろうか。
セルバンテスはスペインを代表する作家である。「ドン・キホーテ」と聞けば、若い人はあの店を思い浮かべるかもしれないが、彼の代表作の名である。スペイン語を専攻していた私は、マドリードに留学して迎えた最初の週末に、小説の舞台となるラ・マンチャを訪ねた。主人公が敵と間違えて戦いを挑む風車を見たかったのだ。丘の上には予想よりもずっと大きな風車があった。背後に無限に広がる荒れた大地とゆっくりと羽を回す真っ白な風車。まさに「知らない世界」に出会った感覚を覚えている。
彼は同時代を生きたシェイクスピアや19世紀のロシア人作家ドストエフスキーなど、国を越え、時を超えて多くの作家に影響を与えたといわれる。しかし飛び抜けておもしろいのは彼の人生である。16世紀に外科医の息子に生まれたが父親の仕事は全くうまくいかず引っ越しを繰り返す。文学を志すも軍人としてヨーロッパはもとよりアフリカでの戦にまで出かける。そして、決して戦果をあげることなく、傷つき捕虜となる。収容所では仲間を扇動し脱出を図っては3回以上失敗。やっと救い出され仕事に就くも、取引先の銀行が破産し、その責を問われ投獄されるなどなど。一言でいえば「トホホな人生」そのものである。しかし彼は、その獄中にて「ドン・キホーテ」の構想を練ったという。無駄はなかったのだ。
(しかしながら、生存中に「ドン・キホーテ」は売れまくったものの、彼のもとにはほとんどその益は届かなかったという。売れるとは思わず安く版権を渡していたそうだ。やはりトホホだ。)
彼は上の言葉にあるような人生を歩んだとは思えない。しかし、きっとその言葉通りの経験を何度か重ねたはずで、その怖さをじゅうぶん知っていたのだろう。
中学生・高校生のみんな、この言葉に何を感じた? で、どうする?
(宗教・英語科 乾)
トップページへ http://www.otani.ed.jp