一週一言インデックス

2024年3月25日月曜日

内に目をむければむけるほど 外の世界が広がってくる 不思議な目

一週一言

94日~910

                                 

内に目をむければむけるほど

外の世界が広がってくる 不思議な目

鈴木章子  

鈴木章子(あやこ)19411988)……北海道斜里町にある浄土真宗大谷派西念寺の坊守。4人の子の母であったが、42歳のとき乳癌の告知を受け、46歳で亡くなるまでの4年間、死と向かい合う苦しい闘病生活をおくった。著書に『癌告知のあとで』(探求社)など。










【如是我聞】

春休み中、ぼくたちは新婚旅行にいった。妻と相談して、ベルギーとロンドンを1週間ほど訪れることにした。とくにベルギーは2人とも初めて訪れる国で、ヘントやブリュージュ、アントウェルペンといえば世界史でも登場する場所たちであり、ワクワクした。

しかし、ブリュッセルに滞在中、妻が体調を崩すということがあった。理由はよく分からないが、とにかく辛そうだ。とりあえずその日は、日がな一日、どこにも出かけずにホテルの部屋で体調の回復につとめることにした。ご飯を食べてしまえば、あとはとくにやることもないので、ぼくは中公新書の『ベルギーの歴史』という本を読んでいた。隣では、妻がしずかに寝息をたてている。一冊を読み終える頃には、ぼくはベルギーが歩んできた複雑な歴史に、眩暈にも似た感覚を覚えた。

本を閉じると、もう昼過ぎだった。換気のために開け放した窓からは、街のざわめきがきこえてくる。異国の言葉で呼び交う人々の声、石畳をてろてろ音を立てて走りゆく自動車、街路樹でさざめく鳥たち、遠くからは教会の鐘が時を告げている・・・。

ぼくは部屋の窓を通して、世界の「音」に耳を傾けていた。それらは今までも存在したはずなのに、ぼくが気づかなかった「音」だった。

妻は眠り続けている。もしかしたら、この旅では色々と予定を詰め込みすぎて、疲れが溜まっていたのかもしれないな。思えば出国前も、仕事や、新居への引っ越しなどでゆっくりする時間もあまりなかった。体調はどうだろうか。どのような夢をみているだろうか。こういう時間を過ごすのもたまには悪くないな、と思った。

翌朝、幸いにして妻の体調は無事に回復した。本当に良かった。しかし、その後、ユーロスターに乗車してロンドンに辿り着いたのだが、今度はぼくが体調を崩してしまった。まあ、そういうこともある。生きていれば、またどこかに行けるさ。ぼくはこれからの人生を楽しみにしている。

(社会科 舟木祐人)





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2024年3月18日月曜日

人はそれぞれ事情をかかえ 平然と生きている

今週の一週一言

月28日~9月3日

人はそれぞれ事情をかかえ 平然と生きている

伊集院 静

伊集院 静1950~)

 作家・作詞家(名義は伊達歩)広告代理店を経て、1981年作家デビュー 『機関車先生』『海峡』『乳房』などが有名。作詞家としては『愚か者』で日本レコード大賞を受賞している。この言葉はエッセイ集『大人の流儀』の「妻と死別した日のこと」から                         

【如是我聞】

近所のお寺の法語は月替わり。月が替わればすっと流れていく。この夏は、自分の体のどこかにぶら下がったままの言葉がある。 

 

「何が私を苦しめているのか。自分が握りしめているその物差しです。」 

 

うん、拘泥していることのたいがいは、自分なりの良し悪しの基準、怒りを覚える・覚えない一線、不安になる・ならない閾値といった、ある意味自分自身を象徴し代弁しているともいえる、脈々と築きあげてきた価値観、物差しが、自身の思考を縛り付けて一定の枠内に押し込んでいる結果だろう。

 

この物差しのもとで、じたばた、あくせくしているなぁ、とおもうのだけど、ただ、「そんなもんよね」と思う自分も一方でいる。慌てても、イライラしても、何かが変わるわけじゃない。うまくいかないのは、自分の物差しにかなわないからなのであって、その結果を受け入れることができていないから。相手がいるならば、相手には相手の思いや、願い、そう考える背景があり、自分もまた然り。違う物差しで同じものを見たら、感じることが違うのは当然。ただそれだけのこと。

 

標題となった言葉が載るエッセイで氏は次のように述懐する。『「いろいろ事情があるんだろうよ……」大人はそういう言い方をする。なぜか? 人間一人が、この世で生き抜いていこうとすると、他人には話せぬ(とても人には言えないという表現でもいいが)事情をかかえるものだ。他人のかかえる事情は、当人以外の人には想像がつかぬものがあると私は考えている。』

 

 本当は、うまくいかないこと、おもいどおりになってほしいこと、いっぱいあって、苦しんでいるんだけど、自分の中では平然となんてしていないのだけど、日常は続く。その日常には「いつも通り慌てふためいている」という「平然」がある。みんな、きっと自分の物差しと向きあっては、苦しんでいる。そういう人間らしいところを分かち合って生きているんじゃないかな。

(社会科 梶)





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2024年3月14日木曜日

ありがとうには理由がある ごめんなさいには理由がないときもある


今週の一週一言

月4日~4月7日

ありがとう には理由がある

ごめんなさい には理由がないときもある

三角みづ紀

三角みづ紀

 鹿児島県出身の詩人。20歳のときに膠原病を発病し、郷里である奄美大島での療養中に詩の投稿を始める。


【如是我聞】

 家族というものは特別だけど、なんだか照れ臭い。社会人になったときぐらいから一気に距離を置くようになった。おそらく自分の中で「社会人たるもの、親に頼らず自分で全てするものだ」というような思い込みが強かったのかもしれない。「〜しようか?」と聞かれても、「別にいい」と短い返信をするだけだ。何かしてもらっても「ありがとう」と直接言うのは少し恥ずかしいから、いつも "Thank you." と返す。

 先日、母親から病院で、胃に異変が見つかり再検査の必要があると言われたと連絡が来た。胃癌の可能性もある、と。ああ、親もいつまでも若くはないのだな。あまり意識してなかったが自分が歳を取る分、親だって当然歳を取る。もし、大病だったら、どうしよう。まだ親孝行なんて何もしてないのに。というか、そういうのはちょっと恥ずかしいのに。幸運にも再検査の結果何もなかった。 

年末に実家に帰省した際、思い切って「今度一緒に旅行いかない?」と両親を誘ってみた。トントン拍子に話が進み、今度の春休みに行くことになった。

家族というものは特別だけど、なんだか照れ臭い。まだまだ改まって「ありがとう」というのはちょっと気恥ずかしいけど、一つ自分のしたかったことができて成長できたような気がする。

(英語科 崎中)                                                                               





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内に目をむければむけるほど 外の世界が広がってくる 不思議な目

一週一言 9 月 4 日~ 9 月 10 日                                   内に目をむければむけるほど 外の世界が広がってくる 不思議な目 鈴木章子    鈴木 章子 ( あやこ ) ( 1...