一週一言インデックス

2016年1月28日木曜日

自分以外のものを頼るほどはかないものはない。 しかし、その自分ほどあてにならないものはない。

今週の一週一言
                                  12月14日~12月23日
自分以外のものを頼るほどはかないものはない。
しかし、その自分ほどあてにならないものはない。
夏目漱石・・・慶応3年、江戸牛込馬場下横町(現・東京都新宿区)生ま。本名金之助。東大文学部英文科卒業。愛媛、熊本に英語教師として赴任後、イギリスへ留学。帰国後、一高・東大講師。38歳の時に『吾輩は猫である』を発表し作家として活動開始。『それから』『こころ』など著書多数。

【如是我聞】
漱石は何が言いたいのだろう…。
自分以外が頼りなくて、その自分もあてにならないのだったらどうしろというのだ。

つまり…これは「格言」ではないのだ。出典がわからなかったので前後の文脈がどういうものであったのかがわからないものの、このことばは漱石自身の迷いであり、とまどいなのだ。
私のイメージする漱石はいつも顔をしかめている。明治という時代に生まれた「近代国家」と「個人」というものを一身に背負って、しかも胃痛に苦しめられ、いつもイライラしている。彼はまるで日本と日本の近代を代表して悩んでいるかのようだ。

それに比べれば私の悩みなどは「はかない」ものだと言わざるをえない。漱石同様「自分ほどあてにならないものはない」と思ってはいる。もちろん、私の「自分ほど」は漱石と比べる価値もないほど「あてにならない」ものであることは言うまでもないが、それでも私にも悩みはある(と言うと、妻や息子は笑うのだ。あまりにもストレスの少ないストレスチェックの結果を見せたら大笑いされた…)。
大きなほうでは、世界平和がいつまでも実現しないことに悩んでいる。テロと報復の連鎖を断ち切れないことに絶望を感じている。国や民族同士の対立、異教徒同士の対立は、お互いの実体を見定めようともしないで相手をまるごと「悪」と決めつけ、自らの正義をふりかざす。対立の犠牲になるのはエライ人たちではなく、いつも女性や子ども、貧しい人たちである。
中くらいの悩みは、そんなに大きいとはいえないこの職場。何年も同じ部屋で仕事をしていながら意思の疎通は難しいなぁということ。人はなかなか変わらない。自分からアクションをおこせず、あきらめのため息をつく。変わらないのは自分も同じか…と、またため息。
小さな悩みは日々生まれている。
テレビを観ていると、「CM上の演出です」「特別な許可を得て撮影しています」「意見には個人差があります」などの小さな文字が気に掛かる。わざわざ記すには理由があるということは理解できる。メディアは(そして学校も)イチャモン社会である。揚げ足をとることに命をかけるヤツ(「命なんてかけちゃいない」との“ご意見”をいただきそうだ)は山ほどいる。でも、画面の片隅の小さな文字でそれをかわそうとする制作者の姿勢もセコいと憤慨している。
晩酌の買い出しにスーパーを歩き回りながら、野菜の高さに心を痛め(レタス1個290円!)、8%の消費税に涙する。軽減税率ったって、10%にならないだけのこと。わずか2%で家計は軽減を実感しない。それに、酒は対象外!? 酒税ってなんなんだ!!
年老いた父母は共に認知症で、バラバラの施設で暮らしている。夫婦として何十年も一緒に生活してきた二人が最後のコーナーをまわったところで離れて暮らさざるを得ない…この責任はどこにある? 国か、厚生労働省か、それとも(長男である)私か…。
言ったって(書いたって)解決しないようなことばかりに悩み、そして怒っている。自分はほんとうに「あてにならな」くて、自分以外のものに丸投げしたい気分になる。これを漱石の気分と並べようとするところにそもそもの間違いがありそうだ。どうもすみません。

ただ、私は「はかな」くったっていいから自分以外のものに頼りたいと思っている。自分は「あてにならない」なぁと愚痴りながら、話したってどうなるものでもないよなと感じながら、自分の傍らに「自分以外のもの」に居てほしいと思っている。大きな悩みも小さな悩みもだれかに話すだけでいくらかは解決するような気がする。解決できなくても怒りが(少しは)落ち着き、イライラは(一瞬)おさまるような気がする。きっと漱石だってそうだったはずだ。(先に死んでしまったけど)子規がいたから、(イライラの原因ではあったかもしれないが)鏡子さんがいたから、(勝手ばかりする)弟子たちがいたから…あれだけの仕事ができたのではないだろうか。
そういえば、漱石の享年は49。今年、私は50になった。「知命」なんてとんでもない。今の世の中と頼りない自分、ほんとうにどうしたらよいのだろう。

(社会科 佐藤博之)





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