一週一言インデックス

2020年10月3日土曜日

怨みは怨みによって鎮まらない。 怨みを忘れて、初めて怨みは鎮まる。

今週の一週一言

                            月28日~10月4日

 

怨みは怨みによって鎮まらない。

怨みを忘れて、初めて怨みは鎮まる。

『法句経』

『法句経』・・・原始仏教の経典の1つ。詩集。

【如是我聞】

 「怨み」によって生まれた悲劇は世界中で数え切れないほど起こっているが、私にとってこういった社会に影響を与える人間の行動心理というものはとても興味深い。最近私が最も深く考えたことといえば20205月にアメリカで起こったGeorge Floydさんの死とそれをきっかけに白熱したBlack Lives Matterの運動だと思う。白人警察官が、黒人であるGeorgeさんに対して不適切な拘束を行ったことにより窒息死してしまうという出来事が、ここ日本では考えられないような影響をアメリカ国内だけでなく世界中に与えた。

最も印象に残っているのはGeorgeさんの6歳の娘とその母親が行った会見である。母親が涙ながらに「彼の命を奪った人たちは家に帰って家族に会うことができる。けれどGeorgeは二度と娘が成長するのを見ることはできない。この先娘は困難に直面したとき、彼女は父親に相談できない。これが、彼らが奪ったものです。」と語る姿は、子供がいない私でさえも心に強く訴えかけられ泣いてしまった。

 この一連の運動に関して色んな情報をかき集めたのだが、様々な立場の考え方があって結局何が正解か私にはわからなかった。この運動自体の怪しさも囁かれていたり、そもそもなぜ黒人だけなのかという疑問があったり(黒人だけじゃなくて全人種の命が大切だろ!と主張する人もいる)、日本にも差別があるのに『私達には関係ない』と思っている日本人がたくさんいるって怒っている人がいたり。そもそもメディアの放送やSNSの情報なんて偏っているし真偽もわからないから本当のところはどうなんだろうと思いつつ、色々見て思ったことがある。

 怒りに任せてか、デモに乗じてか、暴徒化し破壊行為や略奪行為を行う者もいた。そんな彼らに対してGeorgeさんの弟が「何をしているんだ!私でさえ暴れていないのに。そんなことをしても兄は帰ってこない。私達がしなければいけないのは投票だ。」と言ったり、30代のデモの参加者の一人が怒りと悲痛の声で、「俺はこういったデモに昔から参加しているが、何も変わらない。今のやり方ではだめなんだ。別の方法を考えてくれ。変えられるのは若い君たちだ。」と16歳の少年に言っていたりするのを見て、そういった今までの「デモ」や「暴力」とは違う方法で訴える人が増えてきていて、それが将来的になにか大きな変化をもたらしてくれるのではないかと思った。この言葉もそういうことではなかろうか。怨みを返すために、また新たな怨みを生んでしまっていては鎮まらない。その怨みのスパイラルを違う方法で絶つことによって終わる、と思った。

 

 話は変わるが、大谷高校でご縁がありGSI部の顧問をさせていただいて4年目である。世界の様々な問題に触れること自体私も好きだし、生徒にとっても、素晴らしい経験になっているということを確信している。私自身は生徒に語れるほど世界を知っているわけではないので彼らとともに世界の現状を、活動を通して知ることになる。今の自分の生活がどれほどありがたいかを実感するし、世界では想像を絶するような生活を強いられている人がたくさんいることを改めて思い知らされる。部員たちは高校生ながらそういった事実にどう対応してくべきかを様々な国の立場になって考えている。

ある時、たしか「難民問題」について部員と調べていた。調べれば調べるほど残酷な現状を表す資料が出てくる。故郷を離れたくないのに離れざるをえない環境、どこで死ぬかわからない恐怖、家族と離れてしまった孤独、なんとかたどり着いた他国で受け入れを拒否されてしまう絶望。その状況を生んだ「怨み」とその状況に対する新たな「怨み」。ほとんどの生徒は私と同じように胸を痛めた。悲しいなという気持ちを感じたくらいだろう。でも一人、「どうしてこうなるのか。あまりにもかわいそうだ。」と本当に涙する生徒がいた。先程の私のように、涙を誘うようなビジュアルをみて泣くならわかる。でも彼女は、言葉だけで相手の立場を慮り、涙をながしたのだ。彼女は、お題になった問題について深く深く、納得できるまで追求する。そして現実を知っては、涙する。もう何度彼女の涙を見たかはわからないが、そこまでの心を持っている彼女を見て、「どの分野であれ、この子のような心が怨みを鎮める力になるのでは」と思った。もちろんこの生徒に限った話ではないが、教育に携わる者として、新しい時代を作るフレッシュな力を信じて生徒たちの内なる力と可能性を見出していけたらいいなと思う。

(英語科 宮地 のぞみ)





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