一週一言 9 月 4 日~ 9 月 10 日 内に目をむければむけるほど 外の世界が広がってくる 不思議な目 鈴木章子 鈴木 章子 ( あやこ ) ( 1941 ~ 1988 )……北海道斜里町にある浄土真宗大谷派西念寺の坊守。4人の子の母であったが、42歳のとき乳癌の告知を受け、46歳で亡くなるまでの4年間、死と向かい合う苦しい闘病生活をおくった。著書に『癌告知のあとで』 ( 探求社 ) など。 【如是我聞】 春休み中、ぼくたちは新婚旅行にいった。妻と相談して、ベルギーとロンドンを1週間ほど訪れることにした。とくにベルギーは2人とも初めて訪れる国で、ヘントやブリュージュ、アントウェルペンといえば世界史でも登場する場所たちであり、ワクワクした。 しかし、ブリュッセルに滞在中、妻が体調を崩すということがあった。理由はよく分からないが、とにかく辛そうだ。とりあえずその日は、日がな一日、どこにも出かけずにホテルの部屋で体調の回復につとめることにした。ご飯を食べてしまえば、あとはとくにやることもないので、ぼくは中公新書の『ベルギーの歴史』という本を読んでいた。隣では、妻がしずかに寝息をたてている。一冊を読み終える頃には、ぼくはベルギーが歩んできた複雑な歴史に、眩暈にも似た感覚を覚えた。 本を閉じると、もう昼過ぎだった。換気のために開け放した窓からは、街のざわめきがきこえてくる。異国の言葉で呼び交う人々の声、石畳をてろてろ音を立てて走りゆく自動車、街路樹でさざめく鳥たち、遠くからは教会の鐘が時を告げている・・・。 ぼくは部屋の窓を通して、世界の「音」に耳を傾けていた。それらは今までも存在したはずなのに、ぼくが気づかなかった「音」だった。 妻は眠り続けている。もしかしたら、この旅では色々と予定を詰め込みすぎて、疲れが溜まっていたのかもしれないな。思えば出国前も、仕事や、新居への引っ越しなどでゆっくりする時間もあまりなかった。体調はどうだろうか。どのような夢をみているだろうか。こういう時間を過ごすのもたまには悪くないな、と思った。 翌朝、幸いにして妻の体調は無事に回復した。本当に良かった。しかし、その後、ユーロスター
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