今週の一週一言 1月22日~1月28日 心から何かを望むのは、 そんなに簡単なことじゃない。 村上 春樹 村上 春樹(1949年~) 京都府出身。1979年に『風の歌を聴け』でデビューし、数多の作品を世に輩出している。日本国外でも人気であり、芥川賞の受賞が期待されている作家である。また、デビュー以来、翻訳活動も精力的に行っており、翻訳家としての業績も高い。 |
【如是我聞】
友達が新年の挨拶に東京からやってきてくれた。近所の神社に初詣にいく。
ていねいな字で書かれた絵馬がたくさん下がっている。
「戦争が終わりますように」
「しばらく前の世の中にすっかりもどりますように」
うんうん、そうだよね、とうなずきながら読んでゆく。
「かにさされませんように」
かわいい……。ひらがなだけなのがいいなあ。この時期でも刺されちゃうなんてねぇ。
「宿題がもっと出ますように」
えっ。
「ねこになれますように」
かわいい……のだろうか? それとも、人間ではいたくない理由が何かこの人にはあるのだろうか?
最後に、一番の達筆で書かれた、
「弟がましな人間になれますように」
という絵馬を読みつつ、それまで少しずつしていた後じさりを大きくまた一歩おこない、音をたてないよう、そそくさと去る。
家に帰ってからは、絵馬のことは考えないようにして過ごす。絵馬に願いを託すということ。願うこと。うーん。
意識しないようにしてもついつい心から自分が望むことについて考えてしまう。
それで、考えこんでいると、こんなに長い時間も、お金も、手間もいろんなものをかけて、子どもを育てて、たったひとつほんとうに学んだことは、「心から譲ることができる」ということだけだということに行き着く。
おいおい、本当なの?それ以外に何か成長してないの?と聞かれたら、とても情けないけれどそうだと言ってしまう自分がいる。
たとえば、ユニバーサルスタジオに行き、さぁ、いよいよ自分が乗る番だとする。そんなドキドキ最高潮なときに、5歳くらいの子が来て、「おばちゃん、先に乗らせて」と言われたとする。
もちろん若いときの私も譲ってあげただろう。でも、ちょっとだけ頭の中で考えると思うのだ。ほんの数秒。「やっぱり小さい子とはりあったらまずいだろうな」とか。
それが、全くためらいなく、体と心が同時に動いて、いいよって脇によけるようになった。ただそれだけのことに、こんなに時間がかかるなんてどうなの?エゴが強すぎ?と思うのだが、すごい変化だと言えなくもないので、すごい変化だね、と自分で思っている。
もうこんな年齢になってきたので、量、とにかくたくさんの物に囲まれるのではなく、いつのまにか好きな物を厳選して選ぶようになってきている。ピアス、シャーペン、洋服、バッグ、靴など。でもそれらも、娘が欲しいと願えばなんのためらいもなく譲れると思う。大好きなキルフェボンのイチゴタルトも、はい、どうぞ。
それでは大切にしたいものとは、なんだろうか。
難しいことかもしれない。でも季節はいつも味わっていたい。季節の味わい方は食材だけではない。
陽の光でも季節を体で感じられる。学校にいると、夏場の17時はまだ明るいのに、冬場はもう暗い、というように。忙しくて四季を感じられなかった経験がしょっちゅうあるが、四季を感じ、自分を大切にしたい。
そのためには軽やかでいて、自分ルールで縛ることばかりにならないようにしたい。自分が責任を取れる範囲で、自由でいたい。
(須藤か)
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