一週一言インデックス

2020年11月24日火曜日

出遇うということの喜びを『報恩』という

今週の一週一言

1116日~1122

出遇うということの喜びを『報恩』という

安藤傳融

安藤傳融…真宗大谷派の僧侶。

【如是我聞】

うぐいすが高らかに鳴いている。

 毎年うぐいすのさえずりは聞こえてくるが、今年のうぐいすは、ひときわ声がいい。

 例年のうぐいすが、「ホーホケキョ」と鳴くとしたら、今年のは「ルルルルルルルルルルル、ホーーーーーーッホケキョッ、ホーーーーーーッホケキョッ」と、長々とつづく艶のある鳴き声である。おまけに、三月の初鳴きから、五月初旬の今までずっと鳴いている。家の中のどんな音―洗濯機のお知らせやお風呂が沸きましたの音や家人の声やテレビの音―よりも、高らかである。

 やはり、今年は生物界のもろもろが、活動的になっているのか。

 生物界のもろもろに追随せんと、わたしも朝早くから活動を開始。

 人の少ない五時ごろに散歩に出、帰ったら掃除をし、常備菜をつくり、仕事をし、早い昼を食べたらまた仕事をし、お腹がすくころに夕飯を食べ…、という生活をしているうちに、どんどん早寝早起きになってゆく。この頃は、午後八時に就寝、午前二時に起床、というペースになっていた。

 午前五時くらいに起床、ということならば、少しいばった気持ちで人さまに言えるのだけれど、午前二時、というのは、よくわからないけれど、なんだか人聞きが悪いような気がして、誰にも打ち明けられずにいる。

 …と思っていたのだが、新聞を読んでいたら、「平安の貴族は、夏ならば午前三時くらいに起床し、夜明けと共に宮中に上がっていた」と書いてあった。

 なるほど、わたしは今、平安貴族と同じ生活をしているのか!

 早速家族に、自慢する。「はぁ、そぉ」という反応しか得られないが、貴族なので、反応の良し悪しなどにはこだわらないのである。

新型コロナが日本にもしだいに広がりつつあり、外出の自粛が要請される毎日であった。

 スマートフォンの歩数計を眺めると、一日に歩いた歩数が、五歩、二十二歩、百八歩、十六歩、というような日々が続いているので、家族全員で朝、犬の散歩に出ることを提案した。

 そんないつも通りの朝、犬「ラオウ」と娘が目の前で事故に遭った。瞳は凍り付き、目の前が一瞬ぐんと遠ざかった。胸の肉をえぐり取られたような気分になった。

それではもうラオウはいないのだ。今はもうどこにもいないのだ。そう思うとついこの間までのことすべてが、なぜかものすごい勢いでダッシュして私の前を通り過ぎてしまった。

 耐えられそうにない喪失感の中にいるとき、さっと優しい手を差し伸べてくださった先生とそのご家族に見守られながらラオウとさよならをした。帰った家の中は、秒を刻む時間を感じさせないほどにしんとして、静止した雰囲気を醸し出していた。

うぐいすはここ数日はもう鳴かなくなった。遠くから、ラオウの鳴き声が聞こえてくる。なのかもしれないと思って耳をすませると、声は消える。また耳を澄ませると、ふたたびラオウの声が、ずっとずっと遠くから、聞こえてくる。ラオウが大好きだった庭の雑草に触れてみる。

娘を守ってくれてありがとう、ありがとう。それからごめんね。あなたと出会えて幸せだった。

うとうとするような、春の昼であった。

国語科 須藤かおる





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